私は言語学者ではありませんので、外国人(特に日本人)の英語習得能力が如何に発達し、途中で中断した場合、それらの能力がどの程度維持されるかについては、正確なところはわかりません。
しかし、16年以上もアメリカに住んで、さまざまな駐在員のお子様をみてきましたので、傾向性は語れると思います。
英語の能力のうち、1)ヒアリング、2)スピーキング、 3)リーディング、4)ライティングについては、まさにこの順番で、年齢が低ければ低いほどほど習得しやすいものと感じています。
もちろん、各能力の発達/習得は、アメリカでの滞在期間(2年、5年、10年の滞在期間では自ずと英語習得能力は異なる)と帰国する時の年齢(年齢が低いほど忘れやすい)、お子様の性格などにより、大きく異なると思います。
1)ヒヤリング力
年齢が低ければ低いほど、ヒヤリング力(音の聞き分け能力など)の発達は顕著です。前回の記事でも書きましたが、私の友人はオーストラリアで生まれ5歳まで生活していましたが、その後日本に帰り普通の日本の教育を受けて大人になりました。彼は、現在は英語を話すことはできませんが、英語のヒヤリング能力は相当高いようです。私は同じような例を他に2人知っています。
2)スピーキング力
前回の記事で「9歳の壁」の話をしました。その上で、コミュニケーション能力がしっかりしていれば、ネイティブ並の発音でなくてもアメリカ社会で十分にやっていけることも指摘しました。
スピーキング力で留意すべき点は、アメリカでの滞在期間にもよりますが、帰国後に伸ばすことはかなりの根気と努力が必要です。スピーキング力を維持・発達させるには、様々な人と英語で会話する環境が必要だからです。日本で生活しているとリーディング力よりも向上させることは難しいでしょう。
帰国時の年齢が低ければ低いほど、発音は残るかもしれませんが、帰国して日本の学校・生活にどっぷり浸かると、スピーキング力はあっという間に衰えてしまいます。しかし、英語のスピーキング力を失ったと思われるお子様が、高校生になってまたアメリカに戻って来れば、すぐにスピーキング力が復活された例も知っています。
また、言語が形成する10歳から12歳前後の時期に最低5年程度アメリカで過ごしていれば、発音はネイティブに並みになれなくとも、大人になってもスピーキング力がかなり残っている方も知っています。
3)リーディング力
アメリカでの滞在期間と帰国時の年齢が如実に反映する能力です。帰国した時点でのリーディング力が最大値であり、帰国後に何もしなければ少しずつリーディング能力も低くなっていくようです。
一方で、リーディング力は、日本においても維持しやすい能力だと思います。帰国直前までアメリカで読んでいた同じレベルの書物を日本においても読み続けることにより、リーディング力は維持され、少しずつ英語の書物のレベルを上げていけば、その能力は向上するでしょう。
しかし、現実は、日本の学校に戻れば、日本での学校生活が始まると、英語の本を読むことを諦めてしまう場合が多いと聞きます。日本の学校の友達と付き合うようになり、学校のクラブ活動や塾通いをするようになれば、趣味として英語の書物を読み続けることはなかなか難しいようです。
4)ライティング力
この能力も、幼少期に例え10年以上アメリカに滞在したとしても、帰国時の能力が最大値であることが明白です。
帰国される方は、お子様のライティング力についてはあまり気にされる必要はないと思います。なぜなら、日本人の日本語を書く力を例に見ても、大学生でさえ書く力は、50代の私から見れば、社会で通用するレベルではない人が多いからです。私自身も、社会人として30年を経た今となって、ようやく書く力が鍛えられたと感じています。
英語のライティング力も同様です。ネイティブの私の長女を例にとれば、彼女のライティング力は、高校時代にかなり成長したと思います。しかし、アメリカの大学受験の際に提出するエッセー案を知り合いのアメリカ人の大学教授にみてもらったところ、さまざまな点を指摘され修正しました。
大学生となった長女の最近の論文を読みましたが、高校時代の論文と比べ、構成、論理力、語彙力、表現力、想像力、発想力はかなり上達しています。
このように、ライティング力は、語彙力も含めて、永遠に上達させていくものだと思っています。したがって、いくら10年間アメリカに住んでいても小学生の時に帰国すれば、小学生レベルのライティング力しかないということです。
そういう意味で、親御さんは、帰国後にお子様の英語のライティング力の維持についてあまり気にされない方が良いと思います。日本の環境下では、ライティング力の維持・向上が最も難しい能力です。私の長女が、現地校の中学、高校で、あれだけ毎日エッセーや研究・調査のペーパーを書いている姿を思い出すと、帰国後の学校生活の中で同じことをするには、インターナショナルスクールにでも通わない限り、ほぼ不可能だからです。
以上、言語学の専門ではありませんが、経験から得た考察を書きました。アメリカに何年住んでも、いつ帰国しようとも、私も含め言語の習得には終わりはないということでしょう。これは、母国語たる日本語についても言えることです。
幼少期のお子様を持つ親ほど、いかに自分の子供をバイリンガルに育てるかについて、夢と希望を持って語る方が多いですが、言語習得には終わりはないので、その夢と希望を保ちながら帰国後もお子様の英語能力をうまく伸ばされることを祈っています。
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