Monday, January 10, 2022

アメリカの投票権改正の動き

1月6日の議会襲撃事件1周年記念行事において、バイデン大統領は、「大統領選挙以降、州レベルで次から次へ、投票を守るのではなく妨害するような法律が書かれている」と指摘しました。


これはどういうことなのでしょうか。これは、主に共和党が州知事や州議会を押さえている州で、ドライブスルー投票や24時間対応可能な投票所の禁止、郵便投票時の身分証明書提示の義務付け、投票時間の短縮等により、投票方法を従来と比べて制限する法律が成立している動きを指しているようです。


2021年1月から10月までに少なくとも19の州が投票の障壁づくりにつながる法律を成立しているとのこと。


以下、昨年からの投票権改正の主な動きを記します。


2020年

(法案の動き)

①For the People Act(H.R. 1 and S. 2093) 

この法案は、全国規模の選挙制度の導入を可能にする自動的な有権者登録や郵便投票の保障などで投票を容易にし、大口献金者の影響力を制限する包括的な選挙改革法案。

(1)米下院

・1月4日、ジョン・サーベインズ議員(民主、メリーランド州)が提出。

・3月3日、を220対210の僅差で採択。
(2)米上院

6月22日、この法案をめぐる投票が行われたが、野党・共和党から支持が得られず、法案を進めるのに必要な60票には達しなかった。


John Lewis Voting Rights Advancement Act (H.R. 4 and S. 4)

 この法案は1965年に制定された人種差別を禁じる「投票権法」の主要な保護規定の効力を復活させる内容。州が選挙関連の規則を改定する際、事前に司法省の承認を得ることなどを規定。

(1)米下院

・8月17日、テリー・シーウェル議員が提出。

・8月24日、219対212の僅差で可決。

(2)米上院

・10月5日、パトリック・リーヒ上院議員(民主、バーモント州)が提出。

・11月3日、可決に失敗。同種の法案が阻止されたのは、1月のバイデン政権発足後4回目。法案自体の採決に先立つ討議打ち切り動議に、野党共和党議員の大半が反対し、審議入りに必要な60票の賛成を確保できなかった。


Freedom to Vote Act (S. 2747)
 この修正法案には、全ての州で期日前投票期間を15日以上とすることや、2024年までに投票所での即日有権者登録を実現すること、新型コロナウイルス流行下の2020年に導入された郵便投票の制度化などが盛り込まれる。さらに、有権者の身分証規則を設けている州では、バンクカード(銀行発行のクレジットカード)や学生証なども身分証として認めるよう義務付ける。また、有権者が署名による身分証明のみで暫定投票を行うことも認める。暫定投票の集計は当局がその合法性を認めた後に行われる。
 修正法案は、上院議事運営委員会のエーミー・クロブシャー委員長(民主、ミネソタ州)とジョー・マンチン上院議員(民主、ウェストバージニア州)が主導した数カ月に及ぶ非公開協議でまとめられたもの。
(1)米上院
・9月14日、エーミー・クロブシャー議事運営委員長(民主、ミネソタ州)により、選挙改革法案の修正案「Freedom to Vote Act(S. 2747)」が提出される。
・10月20日、この法案をめぐる投票が行われたが、野党・共和党から支持が得られず、法案を進めるのに必要な60票には達しなかった。
 

(各州の投票制限の動き)

◯ジョージア州

・3月25日、米ジョージア州議会が投票制限の州法を可決。「2021年公正選挙州法」は、期日前投票や郵便投票の実施方法を従来よりも制限したり、投票所に行列する有権者に水や食べ物を提供してはならないと規制。ウィリアム・ケンプ州知事(共和党)が署名し、成立させた。

・3月26日、バイデン米大統領は、ジョージア州議会が採択した投票制限の州法を、人種差別的でアメリカらしくない、憲法への攻撃だと非難。

・6月25日、米司法省、ジョージア州で成立した投票法改正が黒人など人種的少数派を差別しているとして、同州を提訴したと発表。不正防止を名目に各州で広がる投票規制の動きに対し、バイデン政権が法的措置を講じるのは初めて。


◯アリゾナ州

・7月1日、米連邦最高裁は、アリゾナ州で指定投票所以外での投票や第三者による票の回収を規制する州法について、選挙に関する人種差別を禁止した投票権法には違反せず、合法と判断。


(テキサス州)

・9月7日、グレッグ・アボット・テキサス州知事(共和党)は、有権者に認める投票方法を大幅に制限する投票権法案に署名。12月から施行される同州法は、1)ドライブスルー投票や24時間利用可能な投票所の廃止、2)郵便投票にID(身分証)の提示義務を追加、3)選挙管理が有権者に未承諾の不在者投票用紙を送ることを禁止、4)日曜日13時以前の投票を禁止、5)党員による投票監視を簡単に排除できないようにし、投票所内での「自由な移動」を認める、6)月1回の市民権調査を実施、等が含まれる。

・11月4日、アメリカ司法省は、投票の権利を制限するテキサス州の州法が連邦法違反だとして、同州を提訴。


(大統領の演説)

・7月13日、バイデン大統領は、ペンシルベニア州フィラデルフィアで演説し、投票制度を全米レベルで見直す選挙改革法案の議会通過(連邦法の制定)が「国家的急務」だと訴えた。


2022年

・1月3日、上院で法案審議日程を管理するチャック・シューマー民主党院内総務は上院議員に対し、今後数週間以内に、投票権に関する法案審議を進める意向を伝える。下院では2021年中に、各州が投票方法に関する変更を行う場合、司法省からの事前承認を求める「John Lewis Voting Rights Advancement Act」など関連法案が可決されているが、実質的に60票の賛成がなければ法案を可決できない上院では、共和党議員の反対により審議入りを阻止されている。

 定数100の上院では、野党の議事妨害を打ち切るのに60人の賛成が必要。シューマー院内総務は、共和党が協力しない場合は、1月17日までに野党の抵抗を封じる上院規則改正に踏み切る考えを示した。規則改正はこれを単純過半数に引き下げる内容で、その過激さから「核のオプション」とも呼ばれる。少数意見を重んじる上院では「禁じ手」とされる。

・米議会上院のシネマ議員(民主)は、1月3日の声明で、投票権とともに、議事妨害を認め、60票の賛成を必要とする規則も支持していると表明。その上で、上院規則を議論することには前向きだとした。

・1月4日、政権の目玉政策であるビルド・バック・ベター法案にも反対を表明している民主党内保守派のジョー・マンチン上院議員は、上院規則改正にも難色を示した。


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本年11月には米議会では中間選挙が行われます。これまでの世論調査では、下院では民主党は過半数を取れず下野すると言われています。すでに19の州で投票の障壁が高くなっており、ますます民主党は不利になっているだけに、投票権改正は、バイデン政権及び米議会与党民主党にとっては極めて重要な課題と言えます。


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