Saturday, October 15, 2022

ロシアと戦術核

ウクライナの標的に向けて「戦術核兵器」を発射すると脅しているロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、本当にこの小型核兵器を使用するつもりはあるのでしょうか。


瀬戸際に追い詰められたプーチン氏にとって「戦術核兵器」の最大の効果は、「ウクライナの一部を人間の住めない場所に変える」と脅すことで、ウクライナの反攻を止めることにある、と言われています。


ロシアの「戦術核」は、どこに打ち込まれるのでしょうか。ウクライナの軍事基地なのか、それとも小さな町なのか。大都市に打ち込まれる可能性もあるのでしょうか。たとえ小規模な核爆発であったとしても、何千という死者が出て、標的とされた基地周辺や市街地は何年にもわたり人間の住めない場所になることになります。


ロシアの「戦術核兵器」のうち、「イスカンデルM」ミサイルに搭載され、西ヨーロッパの都市に到達する可能性のある重弾頭であれば、その破壊力は、最小のもので広島に投下された原爆の約3分の1とされます。


ウクライナでは、1986年にチェルノブイリ原発事故を経験しました。4基の原子炉のうち1基がメルトダウンと爆発を起こし、原子炉建屋が破壊されました。事故当時は南と南東からの風が優勢で、放射性物質を含んだ雲の大部分はベラルーシとロシアに流れていきました。これよりレベルは低かったとはいえ、ヨーロッパのほかの地域、とくにスウェーデンとデンマークでも放射性物質が検出されました。稼働停止した原発周辺の土地は今もまだ、部分的に放射能に汚染されたままです。


このように、破壊規模や残留する放射性物質量は、兵器の規模や風向きなどで変わってきます。そしてプーチン氏の標的次第で大きく変わるでしょう。


「戦術兵器」は、都市を丸ごと吹き飛ばす巨大な兵器と区別するために用いられている兵器です。アメリカ、ロシアなどの核保有国は、強力な核弾頭を大陸間ミサイルに搭載し、互いに狙いを定め合っています。これら巨大な核兵器はニューヨークやモスクワなどの都市が一撃で吹き飛ぶという「人類滅亡」の恐怖をかき立てます。これに対し「戦術兵器」は、市街地の数ブロックを粉々にしたり、迫り来る部隊の隊列を止めたりするものではあっても、世界を破壊するものではありません。


大陸間ミサイルを取り巻く抑止理論、すなわちニューヨークを核攻撃すればモスクワも核攻撃によって確実に破壊されるというロジックは、小型の「戦術兵器」には全面的に適用されていません。


冷戦が終結すると北大西洋条約機構(NATO)は、「戦術核兵器」の軍事的価値は低いと判断し、保有量を大幅に減らしてきました。ヨーロッパは今も「戦術核兵器」を100発ほど保有していますが、その主な理由は、推計2000発の「戦術核兵器」を持つロシアに脅威を感じるNATO加盟国の不安をなだめることにあります。


問題は、プーチン氏が「戦術核兵器」の使用に踏み切るかどうかです。ロシア政府はこのところ、「戦術核兵器」をちらつかせて他国を威嚇・恫喝しています。プーチン氏は今年2月下旬、「核戦力」使用に向けて特別警戒態勢を取るように命じましたが、それが実行に移されたことを示す兆候はありません。


ロシアが核を使用したとしても、限定的な利益のためにとてつもないギャンブルを冒すことになり、うまくいったとしても、前線を現在の位置に固定し、現在ロシアがウクライナで占拠している地域を維持するのがせいぜいだと言われています。


「戦術核兵器」を使ったとしてもロシアがウクライナ全土を支配下に置くことはできないと言われています。


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