中国の習近平国家主席が主導する感染撲滅を狙った強硬な「ゼロコロナ」政策がいろいろと波紋を呼んでいるようです。一方で、ワクチン接種の取り組みは鈍っています。中国政府は過去3年にわたって厳格な規制を支持するプロパガンダを行い、ゼロコロナ以外に命を守る方法はないと主張してきました。
厳格なコロナ規制が導入されてからほぼ丸3年となる中国では、各地で不満が表面化するようになっています。異例の3期目入りを果たした習近平国家主席にとってこの暴動は、自身の権力の今後を左右する試練であり、中国をコロナ時代からどう脱却させるのかという切迫した政治課題を浮き彫りにするものです。
多くの中国国民はロックダウンの必要性そのものに疑いの目を向けるようになっています。11月20日に開幕したカタールでのサッカーワールドカップ(W杯)中継にチャンネルを合わせた多くの中国国民が目にしたのは、観客がマスクも着けずにお気に入りのチームに声援を送る様子でした。中国のソーシャルメディアの利用者は、テレビに映るW杯のお祭り騒ぎと中国の封鎖生活を対比させる、皮肉と妬みのこもったメッセージを投稿しました。
中国の指導者として数十年ぶりという強大な権力を手にした習主席は、厳しい検閲と処罰によって自らへの批判を封じ込めてきただけに、公の場で不満をあらわにする中国国民の姿は余計に衝撃的なものになっています。11中旬には広州市で、3週間を超える封鎖生活の末に出稼ぎ労働者の集団が激しい抗議活動を行い、暴動に発展する事態となりました。
ロックダウンされた広州市海珠区には約180万人が居住し、労働者の多くは広州市の繊維業界で長時間の低賃金労働に耐えていますが、こうした労働者が食料不足に抗議するため街頭に繰り出しました。労働者はフェンスやバリケードをなぎ倒し、ネットで拡散している複数の動画からは、住民と警察の間で別の衝突が起きていたことも確認できます。
中国では感染者数が増え続ける中、一部地域では食料、病床、隔離施設といった政府の感染対策資源が枯渇してきており、労働者らは路上で眠ったり、海珠区の場合はトンネルの中で眠ったりすることを余儀なくされていると聞きます。
広州市にあるiPhone工場でも、何千という労働者が警察の機動隊と衝突し、バリケードをなぎ倒しました。同市では、ロックダウン(都市封鎖)に抗議する人々が建物の封鎖を打ち破って公衆衛生当局者らと衝突したり、配給用の食料を奪ったりしました。ネット上では、新型コロナ関連規制で病院への搬送が遅れたために生後4カ月の女児が死亡したと父親が訴えたのを受けて、多くの中国人が当局への怒りを爆発させました。
過去2週間で見られた中国国民の反発は、中国ではまれにしか見られないものです。そこには、ロックダウン、隔離、大規模検査で日常生活がめちゃくちゃになっていることへのいら立ちや絶望感が極めて鮮明に表れています。こうした国民の怒りに加え、中国では感染者数が全国的に過去最多を更新し続けており、この冬がさらに暗いものになることを予感させています。
習主席が歩み寄りの姿勢を打ち出せなければ、世界の工場として世界経済の成長を牽引してきた中国の地位が揺らぐことにもなりかねません。多国籍企業の中にはすでに、他国での製造拠点拡大を検討しているところもあります。
「鴻海(ホンハイ)精密工業(の暴動)は、『中国モデル』の破綻」との見方があります。問題となっている中国内陸部のアイフォーン工場を運営しているのが台湾の鴻海で、その工場では世界のアイフォーンの約半数が生産されています。製造大国としての中国のイメージが崩壊し、中国とグローバル化の関係も崩壊していると指摘している専門家もいます。
11月下旬に暴動が発生する前でさえアップルは、無計画なロックダウンによる生産の混乱で売り上げに影響が出ていると警告していました。アナリストらはアイフォーン14プロと同プロマックスの納期はさらに遅れると予測しています。
ホンハイの労働者はボーナスの支給遅れに加え、新規採用した労働者をコロナ陽性となった労働者から適切に隔離しなかったことに怒りの矛先を向けています。最近新たに労働者が採用されたのは、同工場で10月に集団感染が発生し、何千人という労働者が逃げ出しからです。
11月22日夜から23日の夜明けまでに、数千人の労働者が警察の機動隊や公衆衛生当局者と衝突したようです。抗議活動の参加者はバリケードを破壊したり、配給される食料を盗んだり、フェンスの断片を当局者に投げつけたりしたとのことです。
ホンハイの労働者が拡散した複数の動画には、何千という労働者が暴動鎮圧装備と防護服を着用した警察官を鉄パイプや鋼材で殴ったり、鋼材を投げつけたりする様子が映っています。道端にうずくまって動けなくなった労働者に、警備担当者が集団になって蹴りを食らわせる様子も映っています。血まみれのセーターを着て路上に座り込む労働者もおり、頭に巻かれたタオルにも血が染みています。
アップルの広報担当者は、同社の現地チームが「状況を調査しており」、ホンハイとともに「従業員の懸念に確実に対応する」取り組みを進めていると述べました。
ホンハイは声明で、ボーナスの支給遅れは社内の採用システムの「技術的エラー」によるものと釈明。暴動については、従業員や政府と協力して「同様の事故の再発を防ぐ」と述べました。また、退職を希望する労働者に1400ドルを支払い、帰宅用の交通費も負担すると約束しました。