ウクライナのゼレンスキー大統領は、アメリカの首都ワシントンDCを電撃訪問し、バイデン大統領と首脳会談、米連邦議会上下両院合同セッションで演説をして、一泊もしないままウクライナに戻りました。この日は、奇しくも、自らの国がロシアに侵攻されてから300日目だったそうです。
ゼレンスキー大統領が、ウクライナ国外への渡航に踏み切ったのは戦争開始以降初めてのことでした。会談を終えた両首脳は、戦争が新たな段階に突入したとの認識を明確にしました。
ゼレンスキー大統領は以前、「公正な和平」によって紛争が終結するのを強く望むと表明していましたが、バイデン大統領との会談では、そのような和平には近づいていないとの認識を示唆し、戦争終結への道はロシアへの譲歩に関連するものとはならないと述べました。
連邦議会での演説でゼレンスキー氏は10項目からなる和平案をバイデン大統領に提示したと発表しましたが、その内容は先月のG20サミットで提案したものと同じだったようです。
ゼレンスキー大統領は、米連邦議会での演説は英語で行い、服装も今や見慣れた陸軍の緑色のシャツに作業ズボン、ブーツを選択。演説では、米国の歴史への言及をちりばめました。勝敗に重大な結果を及ぼした独立戦争中のサラトガの戦いや、第2次世界大戦でのバルジの戦いを挙げました。また、一部の共和党議員を含む多くの米国人がウクライナへの巨額の支援に疑問の声を上げているのを念頭に置き、支援がウクライナ1国にとってのみ重要なわけではないと強調。「今回の戦いによって、我々の子や孫がどのような世界に生きるのかが決まる」と訴えました。その上で、「あなた方の資金は慈善事業ではなく、世界の安全保障と民主主義への投資だ。それらについて我々は、最も責任あるやり方で対処する」と、付け加えました。
ゼレンスキー大統領の到着直前、バイデン政権はウクライナに対する20億ドル近い追加の安全保障支援を発表。この中にはゼレンスキー大統領が数カ月にわたり要請していた高性能の地対空ミサイル「パトリオット」も含まれていました。
米下院で多数派となる構えの共和党は、ウクライナ支援に関するバイデン大統領の要求を簡単には承認しない姿勢を明確にしています。一部の共和党議員はゼレンスキー氏の演説への出席を拒否し、巨額の資金が際限なく流出するとの主張から現状への抗議の意思を表明しました。
今回のゼレンスキー大統領の電撃的な米国訪問については、米軍が深く関わったようです。ロシアが同大統領の「無能力化」を欲しているとの懸念がある中で厳しい警戒警護態勢が講じられ、ウクライナ政府の高官や在米の大使館職員にも訪米の旅程は知らせなかったようです。
ゼレンスキー大統領は訪米にあたり鉄道でまず隣国ポーランドへ向い、ポーランドに着いてからは車で移動。ポーランドのジェシュフ空港に到着後、米軍用機に乗ったと思われます。
ゼレンスキー大統領は、ロシアのウクライナ侵攻後、初めての海外訪問ですが、ウクライナを出国した場合の軍事的なリスクの発生が常にあるため、戦況を悪化させずに短期の海外訪問を実施する対策が練られたようです。
米連邦議会で演説を行った際に、武器支援への感謝の印として、ウクライナ軍兵士がサインしたウクライナ国旗を議会に贈りました。この国旗はゼレンスキー大統領が前日に東部の最前線バフムートを訪れた際に受け取っていたものでした。ペロシ連邦議会下院議長はその返礼に、同日議事堂の上に掲揚されていた米国旗を贈りました。
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