私の大好きなパンは、フランスを長年象徴してきた長細いパンである「バゲッド」。
11月30日、「バゲット作りの伝統とそれをめぐる生活習慣」が11月30日、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「無形文化遺産」に登録されることが決まりました。
マクロン・フランス大統領は、ユネスコの発表が行われた直後、ツイッターでバゲットを 「250グラムの魔法と完璧な日常生活」と表現しました。
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表面は硬く内側は柔らかい特徴を持つバゲットは、フランスの生活に欠かせないものとして定着しており、エッフェル塔やセーヌ川よりもフランス的であると言われています。毎日、何百万人もの人が腕に抱え、あるいは自転車の荷台に縛り付けて持ち帰ります。フランスでは、子どもが大きくなって、初めて自分でする用事は、パン屋でバゲットを買うことなのだそうです。
バゲットは、何十年もの間、フランスの生活のペースを作り、フランス人のアイデンティティの重要な一部となっています。夜明けに漂うパンが焼ける香りや、仕事帰りにほおばっている人まで、バゲットはフランス人にとって物心ついた頃から生活の一部として根付いています。フランス・パン連盟によると、国内で年間60億本以上売られており、平均価格は1ユーロ程度です。
フランスでバゲットは徐々に発展していきました。1600年にはすでにフランスのパン職人によって細長いパンが作られていたとのこと。もともとバゲットは、農民の重くて丸い1週間もつミケとは違って、いたみやすい商品を買う余裕のある裕福なパリジャンのためのパンと考えられており、第2次世界大戦後にフランスの田舎で主食になったそうです。
しかし、バゲットをフランスのアイデンティティと結びつけたのは、20世紀初頭にパリに来た観光客であったようです。
それ以来、フランス人はバゲットを受け入れ、毎年パリのノートルダム大聖堂の外で、国内最高のバゲット職人を審査するコンテストを開催しています。華々しく発表された優勝者は、名声だけでなく、大統領が居住・執務するエリゼ宮で1年間サービスを提供する契約も勝ち取ることができます。
バゲットの材料は、小麦粉、水、塩、イーストの4種類に限られています。しかし、長い発酵期間を考慮して特殊な酵母が開発され、トレードマークの黄金色を出すために特殊なナイフが使われ、オーブンからパンを取り出すために長い柄のついた木の櫂が使われます。バゲットは焼きたてを食べるものなので、ほとんどのパン屋では1日に何本も作っています。
フランス政府は、バゲットの地位向上に伴い、「バゲット製造に必要な職人的ノウハウの威信を高める」ための「ベークハウス・オープンデー」を設け、パン職人の奨学金やトレーニングプログラムを新たに支援するそうです。
しかし、1970年以降、フランスでは村の空洞化が進み、農村部のパン屋は姿を消しつつあり、ヨーロッパでは経済危機によりバゲットの価格が高騰しています。フランスでは年間400軒もの職人的なパン屋が失われ、バゲットは危機に瀕しているようです。特にフランスの地方では、スーパーやチェーン店が伝統的な小さなパン屋を駆逐しています。かつて5万5000軒(人口790人当たり1軒)あったのが、現在では3万5000軒(2000人当たり1軒)にまで減少しているそうです。
地方では業務用のパン製造業者や郊外型スーパーが普及し、都市部ではサワー種のパンを選ぶ消費者が増えたり、これまで同国では一般的だったハムを挟んだバゲットサンドより、ハンバーガーを好む人が増えたりしているためです。2017年以降、ハンバーガーの売り上げがジャンボンブール(バターを塗ったバゲットにハムを挟んだサンドイッチ)の売り上げを上回っています。
パリのパン職人の中には、今回のユネスコによる認定が、ロシアによるウクライナ戦争で小麦や小麦粉の値段が上がり続け、バゲットの値段をさらに上げざるをえなくなるという見方があります。
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