Sunday, June 26, 2022

米連邦最高裁、73年の人工妊娠中絶判決(ロー対ウェイド判決)を覆す

米連邦最高裁は6月24日、人工妊娠中絶を憲法上の権利と認める1973年の「ロー対ウェイド判決」を覆す判断を下しました。今回の訴訟は、妊娠15週以降の中絶を禁止するミシシッピー州法は「ロー対ウェイド」判決などに照らして違憲だとする同州のクリニックの訴えに基づくもので、当該ミシシッピ州の州法の合憲性が争われていました。保守派判事6人が合憲と判断、リベラル派判事3人が反対しました。


1973年の「ロー対ウェイド判決」について最高裁は「憲法は中絶の権利を与えていない」と断言し、「中絶を規制する権限は国民と国民に選ばれた議員に戻される」と指摘しました。


「ロー対ウェイド判決」を覆す判断については、保守派判事5人が支持、リベラル派判事3人が反対しました。ミシシッピ州法を支持したロバーツ最高裁長官は、ロー対ウェイド判決を覆す判断は示しませんでした。


リベラル派のブライヤー、ソトマイヨール、ケーガンの3判事は反対意見を共同執筆し、「今回の判断の結果は明らかだ。女性の権利および自由で平等な市民としての地位を縮小させる」という認識を示しました。


1973年の「ロー対ウェイド判決」は、胎児が子宮外で育成可能になる妊娠24ー28週間までの女性の人工中絶権を全面的に認め、6カ月までも条件付きで認める内容です。この時期まで、女性が人工中絶を選ぶ権利は憲法が保障するものだと認めました。


1992年には、女性の中絶の権利を認めた同判決の中核部分を支持する判断が5対4の僅差で支持されました。その際、共和党大統領が指名したアンソニー・ケネディ判事が最後に考えを変え、判例維持に回りました。


今回の判決で「ロー対ウェイド」判例が覆されたため、いわゆる「トリガー法」(連邦最高裁が「ロー対ウェイド」判決を覆せば自動的に施行される、中絶禁止の州法)を用意し、すでに施行した13州を含め、26州が中絶規制を強化する可能性があります。各州がすでに可決もしくは可決しようとしている州法案から判断すると、強姦や近親相姦による妊娠の中絶は例外的に認める規定がある州は、3割以下とのことです。こうした州に住む女性は、別の州の医療機関に移動する経済的コストを被るほか、州によっては訴訟を起こされるリスクがあります。


オクラホマ州では、アメリカで最も厳しい中絶禁止法を5月下旬に施行されていました。同州では、受胎の瞬間から中絶は禁止されています。妊婦の安全が危険にさらされる医療上の緊急事態を除き、ほとんどの例外は認められていません。


引き続き中絶権が守られている州は、20州とのこと。出産年齢の女性約2650万人がその20州に住んでいるそうです。


中絶が禁止される州で中絶クリニックが次々と閉じる中、中絶を認める州との州境近くでは中絶クリニックが増えると予想されています。合法的に中絶手術を受けられる場所へ移動する時間や資金がない人は、違法だとしてもオンラインで経口中絶薬を注文するなど、他の手段を選ぶ可能性が高くなると言われています。


2019年のアメリカでは、60万~80万件の中絶手術が行われました。米疾病対策センター(CDC)によれば、6件に1件の妊娠は中絶され、その90%以上は妊娠15週までの初期に行われました。中絶手術を受ける半数以上の女性はすでにほかに子供がいる母親で、ほとんどの人にとって初めての中絶となりました。妊娠中絶する女性の過半数が20代で、2019年には56.9%を占めました。


米国では、中絶は、米国内で女性の自己決定権を重視する支持派と、胎児の生命を重んじる反対派が長年にわたって激しく対立してきました。女性の選択の自由を支持するバイデン政権は中絶の権利の法制化を目指しており、11月の中間選挙で争点化しようとしています。


中間選挙で大敗する可能性のある民主党は、中絶問題を理由に、女性の選択権を重視する女性たちが自分たちに投票してくれるよう期待しています。しかし、たとえ中間選挙で民主党が上下両院の多数党であり続けたとしても、この最高裁判決を覆すことはできません。


対照的に、全米で中絶を禁止する連邦法を成立させたい共和党の議員は大勢おり、仮に次の選挙で共和党が議会の多数を占めた場合は、それが次の争点になるのかもしれません。また、憲法は中絶権を保障しないとした今回の論法が、同性婚を禁止するためにも使われる可能性も指摘されています。


現在の最高裁の結果は、トランプ前大統領が判事を3人指名したことが大きかったと思います。2016年大統領選挙で、当時のトランプ候補は、「ロー対ウェイド」判決を覆す裁判官を指名すると公約しました。具体的には、トランプ候補は、民主党のヒラリー・クリントン候補を相手にした16年の大統領選候補者討論会で、「ロー対ウェイド」判決を覆す判断をする最高裁判事を指名すると約束しました。


トランプ氏は、大統領退任から17ヶ月を経て、選挙公約の実現を果たしたことになります。4年間の大統領在任期間にトランプ大統領の指名人事により保守派が過半数となりました。当時のトランプ大統領は2017年にニール・ゴーサッチ氏、18年にブレット・カバノー氏、20年にエイミー・バレット氏の計3人の保守派裁判官を最高裁判事に指名。16年の就任時にはリベラル派が4人、保守派が4人と拮抗していた最高裁のバランスは、トランプ氏の離任時には保守派6人、リベラル派が3人と、保守派の優勢となりました。今回の判決では、トランプ大統領が指名した3人の判事はいずれも「ロー対ウェイド」判決を覆す多数意見を支持しました。


トランプ氏が大統領在任中に保守派判事3人を選んだことの影響は計り知れず、今後も様々な判決を通してその影響は続くことになります。

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