トランプ大統領誕生!
2016年11月8日のアメリカ大統領選挙は、世の中がひっくり返るぐらいのビッグ・サプライズでしたね。予想を完全に覆す結果となりました。
選挙人の過半数270人を取れば当選で、トランプは290人、ヒラリーは232人獲得した結果、トランプが当選しました。
11月20日の時点で、まだミシガン州の結果が出ていませんが、もはや関係ありません。ミシガン州の83郡の票の集計は11月22日まで続きます。11月28日にミシガン州は正式に勝利者を発表する予定です。
国民の投票数は、現時点でトランプが6120万1031票、ヒラリーが6252万3126票と、ヒラリーの方が130万票以上多っかたのですが、選挙人の獲得数でトランプが多かったのですね。このねじれ現象は、2000年の大統領選挙、ブッシュ対ゴア以来のことです。
ヒラリーの敗因はいろいろ言われています。
ヒラリー自身は、国務長官時代に公務で私用メールを使った問題を連邦捜査局(FBI)のコミー長官が蒸し返したために勝利を逃したと非難しています。
しかし、多くの民主党員は、キャンペーンとその戦略について批判しています。
それらの批判を書く前に、大統領選挙の歴史上、一つの興味深い事実があります。
民主党の大統領を引き継ぐ大統領選挙で、同じ民主党の候補が大統領になったのは、南北戦争前の1856年まで遡るという事実です。ジェームズ・ブキャナン候補(民主党)が第14代フランクリン・ピアース大統領(民主党)を引き継いだのが最後です。
民主党の大統領が2期8年務めた後に民主党の候補が大統領になったのは、さらに昔です。1836年大統領選挙でマーチン・ヴァン・ビューレン候補(民主党)が選出され、2期8年を務めたアンドリュー・ジャクソン大統領(民主党)を引き継ぎました。
ちなみに、共和党の事例は、比較的最近です。レガーン(共和党)が2期8年間務めた後にブッシュ(父)候補(共和党)が大統領になった1988年の大統領選挙です。それ以降は、クリントン大統領(民主党)の8年間の後はブッシュ・ジュニア候補(共和党)が大統領になり、ブッシュ・ジュニア大統領(共和党)の8年間の後はオバマ候補(民主党)が大統領になりました。そして、今回、オバマ(民主党)の8年間の後、共和党のトランプ候補が大統領に選出されたわけです。
以上を述べた上で、今回のヒラリーの敗因を列挙してみます。
〇ヒラリーは、白人の労働者階級の支持を得られなかったこと
トランプは、大学の学位を持たない白人の票を結集しました。特にラスト・ベルト地帯において彼らのトランプへの熱気はものすごいものがありました。労働者階級の男性は、2008年選挙、2012年選挙の時は、オバマに投票しました。その理由は、オバマの方が労働者階級が直面する問題を理解し手を差し伸べると思ったからです。しかし、彼らは、ヒラリーに対して同じ思いを持たなかったようです。サンダースは、「自分は労働者階級出身であるが、民主党が私の出身の人たちと話ができないことは深く恥ずべきことである」とツイートしています。また、ヒラリー陣営は、国民が8年間のオバマ政権から変化を求めていることを過小評価していたようです。
〇予備選挙の影響
バーニー・サンダース候補が予想に反して健闘しましたが、ヒラリーはサンダース支持層を最後まで取り込むことができなかったようです。民主党全国委員会が、ヒラリーを優先的に扱ったこともバレてしまい、彼らは、投票に行かない、または第3の候補者に投票するなど、ヒラリーに票を投じなかったと言われています。
〇オバマ支持層との関係
ヒラリーは、テレビ広告の焦点を都市近郊のswing voterに当てていましたが、その一方で、黒人やミレニアル世代がヒラリー支持に熱意を感じていないとの警告が出されていました。世論調査によれば、若い世代は、両候補者を嫌っていること、黒人は今回の大統領選挙に熱狂的でないことはすでに分かっていました。しかし、ヒラリー陣営は、彼らはトランプが大統領になることを恐れ、ヒラリーに投票すると信じていました。
30歳以下の黒人の8%とヒスパニックの5%は、第3の候補者に投票したようです。彼らの関心は、刑事手続きの公平性や警察の暴力への対応に関心がありましたが、ヒラリーはこの点について効果的な対策を打ち出すことはできませんでした。ヒラリー陣営は、フロリダ州選出のヘイスティング下院議員による、「ヒラリー陣営の黒人層へのリーチアウトが十分でない」との警告を無視しました。若い世代の黒人やヒスパニックがオバマに投票したのは、オバマ支持のためであり、必ずしも民主党支持ではなかったようです。ヒラリー陣営はそこを読めなったと言われています。黒人票を当然視していたのが大きな間違いでした。
〇経済のメッセージが弱かったこと
民主党は、専門職階級の党になってしまい、そのため労働者階級のための政策を打ち出すことができず、彼らの票を獲得できませんでした。「Stronger together」とのメッセージは、人種を乗り越えて結合しようといういわゆる社会的メッセージですが、経済政策ではありませんでした。民主党は、経済的公平性実現を目標の一つとすべきとの声は民主党内からも挙がっています。ヒラリーは、高額所得者への増税、富の再配分などを主張していましたが、いかなる人種であっても労働者階級の心に響くのは「仕事/雇用」でありますが、それにについてはほとんど話しませんでした。 オバマ大統領は2010年以降は、大型インフラプロジェクトを推進しませんでした。1980年代に製造業の仕事を失った層は、1990年代に少なからずの建設業に従事できましたが、2000年以降は仕事がなくて苦しんでいます。ヒラリーは彼らのための雇用創出の具体的政策を打ち出すべきでした。
ヒラリーは、トランプのことを金持ちで労働者階級の気持ちがわからない候補と批判せず、大統領に「ふさわしくない」としか批判しませんでした。なぜなら、ヒラリーも労働者階級の気持ちがわからないと批判される可能性が高かったからです。そのため、ヒラリーは、トランプ陣営にトランプは労働者階級の味方であるという戦術を許してしまいました。
〇ヒラリー陣営の選挙マシーン
ヒラリー陣営の選挙運動は、オバマが大統領になったときのデータを使ったロビー・ムークにより運営されましたが、現場の情報や熱気のなさが選対本部に十分に伝わっていなかったと言われています。ヒラリー陣営は分析に頼りすぎて、現場からの情報をないがしろにしたようです。また、各州の地方に住む人々の心にひびくメッセージを出すことができなかったとも指摘されています。
〇傲慢さ
選挙戦の最後の方になっても、トランプと比べてヒラリーの遊説日程は比較的緩やかでした。訪問した都市も明らかに少なかったです。民主党の幹部によれば、クリントンは勝利を当然視していたようです。もしかしたら、ヒラリーの日程がきつくなかったのは、彼女の健康問題がなにかしら関係していたのかもしれませんね。
〇ラジオ
ラジオのトーク番組は、地方の田舎では保守層に人気であることを忘れてはいけないと思います。多くの人は、運転する時や家にいる時でさえも、保守的なトーク番組を聞いています。都市部の人は、田舎や近郊に住む人が、どれだけの時間を運転に費やしているかを忘れがちです。彼らは、Rush Limbaugh、Sean Hannity、Mark Levin、Michael Savageら保守層の5時間くらい続くラジオ・トーク番組を毎日聞いているのです。彼らは、ラジオで、Fox Newsでさえ比較にならないほどひどい言葉を使ってヒラリーを批判しています。